トランス女性排除のムーブメントの終着点は多様性を喪失したディストピア
ほんの半年ほど前まで、わたしもALL GENDERトイレが増えると良いと思っていた。
しかし、お茶大のトランス女性受け入れ表明をきっかけに始まった、SNS(主にTwitter)でのトランス女性排除のツイートの急激な増加は、そんなわたしの甘ったるい考えに頭から冷水を浴びせた。
このようなSNS上で始まったトランス女性排除の動きに対してジェンダーやフェミニズムの研究者の強い危機感から、対抗する言説が現れ、署名活動という具体的な形での抗議がされたことは本当に感謝したい。
【署名対象者変更につき4/10まで期間延長】賛同の呼びかけ:トランス女性に対する差別と排除とに反対するフェミニストおよびジェンダー/セクシュアリティ研究者の声明
SNSでのトランス女性排除のつぶやきの急激な増加の原因は、杉田水脈衆議院議員の取り巻きからのLGBTコミュニティへの意趣返しであると推測している。
しかし、仮にこの推測が正しいとしても、L,G,B,T,Q,I,A・・・の間にもともと存在している不信感、違和感、無理解を巧みに利用されたことは否定できない。
このことが端的に表れたのがGOLD FINGERでのトランス女性排除事件とその後の謝罪であったと思う。
そして、日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを意識してなのか、1周遅れでALL GENDERトイレへの改修や設置を進めている。いかにも誇らしげに・・・
LGBTらに優しいトイレ 東京五輪に向け都が計画
トランスジェンダーの人々は、はじめからALL GENDERトイレを使いたいと思っているわけじゃない。本当はそれぞれの性自認のトイレを使いたいのだ。
しかし、シスジェンダーに遠慮して、あるいはトラブルに見舞われるリスクを回避して自分を守るために、わたしのようにALL GENDERトイレを探して使う人も少なくない。
三橋先生が言うように、いままでは何も問題が無かった。性自認のトイレを使える人は使うし、使えない人は使わない。ただそれだけだ。
なぜ2019年の日本で、トランスジェンダー女性たちが攻撃されているのか トランスジェンダーにとって世界で最も安全な国だったのに(文春オンライン 2019)
トランスジェンダー学生受入対応ガイドライン(お茶の水女子大学 2019)
http://www.ocha.ac.jp/news/20190528_d/fil/TG_guideline20190528.pdf
IKEAのトイレは男女のマークが表記されているが、ALL GENDERという意味では無いように思う。男女に関わらず個室であることに意味があって、それはIKEAの従業員ひとりひとりを大切にするという意志の表れのように思う。とても優れたデザインだと思う。
わたしたちは、誰でもトイレにレインボーフラッグを掲げるという妙な動きを止めさせることはできたが、TOTOのホームページを見ても、モノクロ表示になっただけであって、「LGBTトイレ」という旗を降ろす気配は無い。
「LGBTのトイレ問題」について、わたしたちもそんなに大騒ぎするべき問題では無いとタカをくくってた。「まぁ、ALL GENDERトイレが増えれば良いんじゃね?」みたいな安易な・・・
わたしは、職場で毎日「誰でもトイレ」に通う、周囲もわたしのそうしたふるまいを好感を持って窺っていると感じる。いっぽうで、性自認のトイレを問題なく利用しているトランスジェンダーの学生達からみたら、哀れな存在であったり、無自覚の差別者、トランスミソジニーを内面化した裏切り者と思う者もいるかも知れない。埋没できないトランスジェンダーの学生からは、わたしのようにしなければ生きていけないということを日々思い知らされる、負のロールモデルでさえあるのかもしれない。
トランス女性排除の動きは、日本のSNSやレズビアンバーに限定した話では無くて、アメリカ、イギリスでも顕著になっている。
カミングアウトしたことで自分がどう思われるかということについては、ある程度までは覚悟を決めていたが、トランスジェンダーのこども達の未来について、わたしは本当のところ深く考えていなかったのだと思い知らされた。
東京大学の三浦俊彦教授が指摘する「(お茶の水女子大学は)滑りやすい坂を転がり出した」という指摘に対して、どう向き合うか、どう対抗していくのか。
三浦俊彦教授によるトランスジェンダーに関するオンライン記事について「東京大学関係教員有志声明」への応答(TOCANA 2019)
日本のトランス女性はかつて無い危機に見舞われている。
そして、このことは日本のすべての女性が、そして男性も、日本に住む、すべての人々が尊厳の危機に見舞われているということだ。
2019.6.16 レインボー・アドボケイツ東北(山形純)